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<title>ツレヅレナルコトバ</title>
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<modified>2007-02-21T09:23:56Z</modified>
<tagline>気になる「コトバ」をコラムとショート・ショートで斬る、Wordエンターテイメント</tagline>
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<copyright>Copyright (c) 2006, きゃぽ</copyright>
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<title>メタボリックシンドローム</title>
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<modified>2007-02-21T09:23:56Z</modified>
<issued>2006-09-14T15:00:00Z</issued>
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<summary type="text/plain">最近、どうにもピンとくるコトバがない。 センスがなかったり、逆に笑い飛ばせるほど...</summary>
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<name>きゃぽ</name>

<email>cap_ml@classix.jp</email>
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<dc:subject>2006年のコトバ</dc:subject>
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<![CDATA[<p>最近、どうにもピンとくるコトバがない。<br />
センスがなかったり、逆に笑い飛ばせるほど徹底したセンスのなさではなかったり。こういうコラムを書く人間にとっては、ネタ氷河期である。困ったぞ。<br />
　<br />
そんな中で、やたら耳にするようになったのが、このコトバ。<br />
シンドローム（Syndrome）は「症候群」。マスコミが世相を斬るのに喜んで使うコトバだが、医学用語である。メタボリック（Metabolic）の方は耳慣れないが、「代謝の」という意味。<br />
パッと聞いただけでは、さっぱりわからない。まだ暫定的ではあるが、以下のように定義されているらしい。<br />
<table align="center" border="0"cellspacing="8" bgcolor="#e5f2ff"><tr><td>１）ウエスト：男性85cm以上、女性90cm以上<br />
２）血圧：最高血圧130mmHg以上 or 最低血圧85mmHg以上<br />
３）中性脂肪値：150mg/dL以上<br />
４）空腹時血糖値：110 mg/dL<br />
５）HDLコレステロール値：40 mg/dL未満<br />
１）に当てはまり、かつ、２～４のうち２つ以上に該当する人は、糖尿病、高血圧症、高脂血症などのリスクが高まる。</td></tr></table><br />
１）が前提条件になっているのは、この症候群が「内臓脂肪の過剰な蓄積」によるものだから。ウエストサイズが、内臓脂肪量の目安になるのだそうだ。<br />
「内臓脂肪が溜まりすぎて、血糖値やらコレステロール値やらに複合的に異常をきたしてる状態」。これが、メタボリックシンドローム、らしい。<br />
　<br />
……内臓脂肪が溜まりすぎると成人病になること位、相当昔から言われてた気がするのは、私だけだろうか。<br />
説明を聞くと「何を今更」と思わずにはいられない。なんで今頃、こんなコトバが生まれ、流行しているのだろう？<br />
　<br />
流行には、わけがある。<br />
わけは、今回必須条件として挙げられている、１）だ。<br />
<b>ウエストが、男性85cm以上、女性90cm以上は、危険。</b><br />
これまでどうやって把握すりゃいいかわからなかった内臓脂肪が、ウエストサイズ、というわかりやすい形で示されたから、ウケているのである。<br />
マスコミもこの部分ばかり強調して、健康診断ではおなか周りも測りましょう、などとやっている。ダイエット好きの女性も大いに気にするサイズなので、この目安数値はあっという間に広まった。<br />
　<br />
しかし。ちょっと、待て。<br />
身長180cm、ウエスト85cmの男性と、身長155cm、ウエスト85cmの女性がいたとする。<br />
前者は危険、後者はセーフ？？？？<br />
　<br />
専門家でも、現在の指針には疑問を持っている人が多いらしい。だからこそ「暫定的な定義」なのだろう。<br />
でも、そんな疑問おかまいなしに、現在、メタボリックシンドロームは絶賛流行中である。85cmと90cmをボーダーと認識して、「なんだ、まだまだ食べられるじゃん」と喜んでいる女性がいそうで、非常に怖いなぁ……。<br />
　<br />
ところで、この流行に乗って、落とした脂肪を現金買取するフィットネスジム、なんてのが登場したらしい。<br />
当ジムのダイエットコースで運動してくれれば、落ちた体重分のお金をキャッシュバックしますよ、ということ。色々考えるもんだなぁ、商売人というのは。<br />
まあこの場合、お金を払ってフィットネスジムに行っているのだから、やっぱり「お金をかけて体重を減らしている」わけで、買い取ってもらえて得しちゃった、とはならない。<br />
だがしかし、企業などもこの流行に注目し、社員の健康増進のために色々工夫している昨今、これと似た社内向けシステムが登場する可能性もある。<br />
たとえば、こんなの。<br />
　<br />
<table border="0" cellpadding="10" bgcolor="#e5f2ff" align="center"><tr><td><b>★脂肪削減キャンペーン★</b><br />
近年増え続ける健康組合の医療費負担の削減と、残念ながら昨年も２名発生してしまった成人病による突然死を食い止めるため、社員全員を対象に、脂肪削減キャンペーンを行います。<br />
当健康組合が提唱するダイエットプログラムを実行していただき、その効果に合わせて金一封をプレゼントします。<br />
１）体重1kg削減毎に、2000円<br />
２）ウエスト1cm削減毎に、3000円<br />
３）メタボリックシンドロームの定義から正常値になった人は、お祝い金3万円<br />
　<br />
＊＊＊<br />
　<br />
「お……おい、山本、もうやめとけよ」<br />
「いいや、まだまだー！」<br />
「いや、よせって。もうお前は十分やせたよ。それ以上いいって」<br />
「何言ってるんだ、まだまだいけるって！俺はデブだったんだぞ、まだまだ脂肪が残ってる筈だ！」<br />
「そ、そりゃ確かに、この前までのお前はデブだったよ。体重100キロ超えてたもんな。ウエストも100近かったし。でも……今、一体何キロだ？ウエストはどうなった？」<br />
「まー、減ったけどなー。お前よりはまだ太ってるぞ、田中」<br />
「俺は元々、標準よりやせてるんだよっ！お前で標準、これ以上やったらヤバイって！内臓脂肪なんて、もうとっくに燃焼され尽してるんだ、諦めろ！」<br />
「いーや！！！まだどっかに残ってる筈だ！！！なぁに、任せとけ、もう残ってないなら、増やすだけさ。ファミレスのやすーい脂身だらけのステーキでも食い続けりゃ、またすぐ脂肪がつくから。ダイエット食って意外に高いんだよな。ハハハ、一石二鳥」<br />
「意味ないだろっ！」<br />
「賃金カットで苦しんでた矢先に、ダイエットプログラムでどーんと何万も稼いだ俺様だぞ。見てろよー、この体で、がんがん稼いでやる！」</td></tr></table><br />
　<br />
<b>本日の教訓：「身を削るようにして働く」の意味を履き違えてはいけない。</b></p>]]>

</content>
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<title>おめでた婚</title>
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<modified>2007-02-21T09:23:55Z</modified>
<issued>2006-03-14T15:00:00Z</issued>
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<created>2006-03-14T15:00:00Z</created>
<summary type="text/plain">「できちゃった結婚」（最近は略して「でき婚」なんて言うらしい）という言葉がほぼ定...</summary>
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<name>きゃぽ</name>

<email>cap_ml@classix.jp</email>
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<dc:subject>2006年のコトバ</dc:subject>
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<![CDATA[<p>「できちゃった結婚」（最近は略して「でき婚」なんて言うらしい）という言葉がほぼ定着してきたと思ったら、新たな呼び方が。<br />
それが「おめでた婚」。意味は、「でき婚」同様、結婚する前に妊娠したカップルの結婚、である。<br />
既にそれを表す言葉があるのに、新たな呼び方が登場したのには、実は理由がある。<br />
　<br />
昔は、「結婚前なのにふしだらな！」と眉をひそめられ、世間の目を気にしてひっそり結婚、といったイメージだった「でき婚」。<br />
ところが最近は、なんと４組に１組がこれなんだそうだ。<br />
なんでこうなったか、と言うと、それだけ性が乱れてる、というのもあるが、何より「妊娠でもしないと結婚に踏み切れない」という人が増えたのかもしれない。独身が居心地のいい時代なのかもしれないなぁ。<br />
　<br />
それだけ「でき婚」の人が増えると、結婚する方も祝う方もオープン化していく。昔はあまり褒められた話ではなかった「でき婚」を容認する方へと、社会が（それ以上にブライダル業界が）傾く。<br />
それに伴い、名称問題が浮上した。<br />
「できちゃった」という響きは、なんとなく事故めいたものがある。そんな筈じゃなかった、的ニュアンスが残っているし、やはり昔からのイメージを引きずってる部分も多々ある。<br />
そこで、イメージ一新を狙って登場したのが「おめでた婚」だ。<br />
妊娠のことを「おめでた」と言うし、結婚はめでたい。めでたいこと尽くしだぞ、ということで「おめでた婚」。なるほど。確かにそうかも。<br />
　<br />
ただ、個人的には、この言葉には疑問を感じる。<br />
「でき婚」が「おめでた婚」になるケースというのは、男女双方結婚を望んでおり、いずれ子供も欲しいね、と思っていたところに、嬉しい誤算で早めに子供ができてしまった、というケースだけだろう。<br />
結婚する気のない相手に子供ができ、「責任取って結婚してよ」となるケースは、めでたい、ではなく、諦める、に近い気がする。<br />
　<br />
現在の「でき婚」カップル中、本当に「おめでた婚」なカップルがどの程度を占めているかは、私にもわからない。<br />
夫婦になる覚悟も、親になる覚悟もないまま、責任問題で誕生する家族が増えるのは、あまりいいことではない。実際、離婚率が高く、子供がいる分不幸は大きい。それを容認し、安易な妊娠を助長させるような「おめでた婚」という呼び名は、こうしたケースには使いたくない。<br />
しかし、望んでいた妊娠の結果であれば、「でき婚」という言い方は、本人も、祝う側もやっぱり嫌だ。<br />
もっと他に、いい呼び名はないだろうか。<br />
　<br />
<table border="0" cellpadding="10"><br />
<tr><td bgcolor="#e5f2ff">　<br />
「めでたいケースと責任問題のケースで、呼び名を分けるってのはどうでしょう」<br />
「それはまずいよ。世間に“責任取らされました”と宣言するようなもんじゃないか。誰もそんな名称、使わないよ」<br />
「しかし、本当にめでたいカップルについては、旧来の“できちゃった結婚”は、ちょっと……」<br />
「“ハプニング婚”は？」<br />
「いやー、なんかの間違い、って感じがして、嫌だなぁ」<br />
「“アクシデント婚”……違うな。もっとまずいよな」<br />
「でも、男にとっては、それが本音ですよ」<br />
「妊娠と結婚の順序が逆になったから、“逆さ婚”とか」<br />
「なんのことかわからないよ、それじゃ」<br />
「もっとニュートラルな言葉がいいんじゃないかな」<br />
「めでたさも、悲壮なムードもない言葉か」<br />
「“マタニティ婚”は？」<br />
「お、いいね、それ」<br />
「いや、ちょっと待って下さい。男女平等社会なんですから、妊婦にばかりスポットライトが当たるのは、どうかと思います。新郎は飾り物ですか？」<br />
「飾り物だろう、実際」<br />
「それを言ったら身も蓋もないよ」<br />
「しかし、確かにそうだな。それに、何も妊娠したことをわざわざ名称としてあからさまに出す理由など、本当はないかもしれないなぁ」<br />
「でも、それとなく“普通の順序じゃない結婚”であることは、名前として出したいじゃないですか。婉曲というか、比喩というか……」<br />
「そうだなぁ。“おめでた婚プラン”という、妊婦向け披露宴プランを出している立場からすれば、新婦が妊娠中かどうかは非常に重要だしなぁ」<br />
「「「うーん……」」」<br />
　<br />
　<br />
<b>命名。<br />
『サプライズド婚』</b><br />
（びっくり“させられた”の意の“ド”がポイント）<br />
　<br />
定着の予想：ほぼ０％</td></tr></table></p>]]>

</content>
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<title>マニフェスト</title>
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<modified>2007-02-21T09:23:53Z</modified>
<issued>2005-09-14T15:00:00Z</issued>
<id>tag:www.will-way.com,2005:/wan_will/alpha/cap//21.591</id>
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<summary type="text/plain">　マニフェスト（manifesto）とは、元々は宣言とか声明書という意味だが、最...</summary>
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<name>きゃぽ</name>

<email>cap_ml@classix.jp</email>
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<dc:subject>2005年のコトバ</dc:subject>
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<![CDATA[<p>　マニフェスト（manifesto）とは、元々は宣言とか声明書という意味だが、最近よく使われているのは、各政党が出す「政権公約」としての意味。おととし（2003年）の総選挙で民主党がこの言葉を連呼したため、あっという間に浸透・定着したコトバ。「政権公約なんて今までもずーっとあったわい、横文字にしたからって何が変わるんじゃい」とお怒りの方もいるのでは。<br />
　かく言う筆者も、何やら民主党が横文字使ってかっこつけてるな、と当時は思ったが、定義を調べたところ、微妙だが大きな違いがあることが判明した。<br />
　政権公約の方は、いわゆる「政策理念」を打ち出すもの。「社会保障の充実を目指す」なんてのがそうだ。<br />
　一方マニフェストは、「政策パッケージ」そのものを打ち出すもの。「社会保障の充実のためには予算がこれだけ必要です。我々はここを削り、こういう制度を設け、こういう保障が受けられる社会を目指します」という政策そのものが盛り込まれる。<br />
　昔から、選挙時に公約したことを破ったりすると、「公約違反」と言って地元とかマスコミとかにバンバン叩かれていた。が、マニフェストを実行しないと、世間の目はもっと厳しい。なにせ、「成績を今よりも上げます」じゃなく「毎日5時間の自習を実行し、国語で90点以上、数学で80点以上を実現します」と宣言してるんだから、現在国語が60点の人が80点取っても「公約違反」と叩かれてしまう。マニフェスト選挙は、厳しいのである。<br />
　<br />
　さて。今の時代、ネットで各党のマニフェストが見ることができる。各党、どんなことを書いているだろう？<br />
　見てみて、なるほどなぁ、と思う。与党、連立政権を組む党、野党第一党、野党……それぞれの立場が、マニフェストににじみ出ているなぁ。<br />
　どこの党のマニフェストが一番、なんてことは、筆者には言えない。<br />
　ただ、曖昧なマニフェストを掲げておいて「実はあれはこういう意味だったんですよ」という後だしジャンケンみたいな真似も、大風呂敷広げておいて、政権握った途端「言ったはいいけど、現実見るとどれも無理だなぁ、どうしよう」なんて途方に暮れる真似も、「どうせ与党の賛成多数で通るんだし。対案がなければ議会を欠席して抗議だ」なんて有権者をバカにした真似も、やめて欲しいと切に思う。<br />
　<br />
<table border="0" cellpadding="10"><br />
<tr><td bgcolor="#e5f2ff"><br />
　汝、<br />
　その健やかなる時も、病める時も、<br />
　喜びの時も、悲しみの時も、<br />
　富める時も、貧しい時も、<br />
　これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、<br />
　その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか？<br />
　<br />
　<br />
　「……はい、誓います、って言った癖に……」<br />
　ピピッ、と音がした。体温計を抜き取って見ると、表示されている数字は38度4分。<br />
　ふすまの間から覗く隣の部屋からは、軽快な音楽が流れてくる。わたしにはタイトルもよく分からないゲーム。深夜、秋葉原の店に並んで購入したのだと自慢してたっけ。<br />
　病床から身を起こし、ゼーゼー言いながら、ふすまを開ける。テレビ画面に釘付けだった男が、振り返った。<br />
　「お、大丈夫？」<br />
　「……これが、大丈夫に見えるわけ？」<br />
　<br />
　お前の目はふし穴か？<br />
　第一、あんたが会社からもらってきた風邪なのに、なんであんたは1日で治って、わたしが2日も寝込んでるのよ。<br />
　<br />
　声なき声が届いたのか、男は気の毒そうに、心底心配そうに眉をひそめる。<br />
　「うーん、まだまだ苦しそうだねぇ。ごめんよ、オレがヘンな風邪もってきちゃったせいで。寝てた方がいいよ。ゆっくり休んで」<br />
　「……そうさせてもらってるわよ」<br />
　「あ、ところでさ」<br />
　心からのいたわりの言葉をかける男は、心配そうな顔のまま、こうのたまった。<br />
　<br />
　「オレ、そろそろおなか空いてきたんだけど、今夜の夕飯なに？」<br />
　<br />
</td></tr></table><br />
　<br />
　本日の教訓：マニフェスト　公約違反は　地獄行き　／　世の奥様方詠む<br />
　（注：知人から聞いた話をもとにしたフィクションです。筆者宅の日常ではありません）</p>]]>

</content>
</entry>
<entry>
<title>クール・ビズ</title>
<link rel="alternate" type="text/html" href="http://www.will-way.com/wan_will/alpha/cap/archives/2005/07/post_4.html" />
<modified>2007-02-21T09:23:53Z</modified>
<issued>2005-07-14T15:00:00Z</issued>
<id>tag:www.will-way.com,2005:/wan_will/alpha/cap//21.582</id>
<created>2005-07-14T15:00:00Z</created>
<summary type="text/plain">国が提唱するものにしては、珍しい位にネーミングセンスがいいな、と思ったら、一般公...</summary>
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<name>きゃぽ</name>

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<dc:subject>2005年のコトバ</dc:subject>
<content type="text/html" mode="escaped" xml:lang="en" xml:base="http://www.will-way.com/wan_will/alpha/cap/">
<![CDATA[<p>国が提唱するものにしては、珍しい位にネーミングセンスがいいな、と思ったら、一般公募だった。やっぱり。<br />
「クール・ビズ」。「Cool（涼しい）」と「Biz（ビジネスの略）」をくっつけた造語であるが、その実態は「ノー・ネクタイ、ノー上着運動」である。<br />
目的はズバリ、「省エネ」。夏になると、冷房のために電気消費量がグンと跳ね上がるので、この冷房温度を２度上げることで、電力をセーブしようということだ。<br />
でも、夏は、暑い。冷房温度を２度も上げたら、全然オフィスが冷えないよ、という声が聞こえてくる。<br />
ところが、女子社員の立場からすると、必ずしもそうではないことが分かる。何故なら、真夏の女子社員は、社内では膝掛けが手放せないからだ。男性社員に合わせた冷房温度では、女子社員には低すぎるのだ。<br />
つまり、オフィスを冷房しすぎにしている原因は、男性社員にあり。そして、何故男性社員がこうも暑がりなのか、と言うと……その原因は、服装にあった。<br />
ネクタイで首周りを締め付け、半そでＴシャツ１枚でも暑いのに長袖の上着を上から羽織っているジャパニーズ・ビジネスマンは、歩くサウナ状態で日々働いている。暑いのは当たり前。どう考えても気温に対応した服装をしていないのだから。<br />
で、「ノー・ネクタイ、ノー上着」である。夏なんだから涼しい格好しましょうよ、ということ。よく考えたら、至極当たり前の提言だった。<br />
　<br />
さて、この「クール・ビズ」。クールは当然「涼しい」の意なのだが、実はもう１つ、裏の意味がある。「カッコイイ」という意味である（政府がそう言ってるんだから、裏じゃなく、公式な意味とも言える）。<br />
今着ているスーツ姿でネクタイと上着を取ったら「クール・ビズ」になるのか、と言ったら、確かに表の意味ではそうなるが、裏意味ではＮＧ。嘘だと思うなら、やってみるといい。鏡に映った姿は、どう見ても「カッコイイ」とは言えない筈だから。<br />
そもそも、ワイシャツという服は、ネクタイを締め、上着を着ることを前提にデザインされている。なのに、その前提を取っ払ってしまったら、酷く間抜けな服装になってしまうのだ。<br />
だから今、紳士服売り場に行くと「クール・ビズ用のシャツ」なるものが売られている。ネクタイなしでもびしっと決まるよう工夫されたシャツである。<br />
政府は、消費拡大も狙って、「クールな装いになるかは、あなたのセンス次第」という政策を取ったのかもしれない。<br />
　<br />
かつての「省エネルック」も、目的は同じだったが、そのあまりのセンスのなさに定着せずに終わった。一部、頑固な国会議員は、まだ着てるけど。<br />
さて、「クール・ビズ」は、定着するだろうか？<br />
とりあえず、スーツを着ずに会議に出ると「けしからん！」と眉を上げるような人種を思想改造することと、すっかりファッションセンスが錆付いてしまったビジネスマンをブラッシュ・アップさせることが、定着への鍵となりそうだ。<br />
<table border="0" cellpadding="10"><br />
<tr><td bgcolor="#e5f2ff">2005年夏、某社の平社員・田中と鈴木は、とある南の国に出張することになった。<br />
海外旅行未経験な上、国際情勢にも詳しくない２人である。なんでこんなのに出張を任せるのか、会社側の意図はさっぱり分からないが、とにかく任されてしまったのだ。２人は、ひたすら戸惑った。<br />
「やですねぇ。暑いんでしょ、あの国。せっかくクール・ビズで涼しい思いしてたのに、あんな暑い国でも、観光じゃなきゃスーツ必須ですよね」<br />
田中より若干年若い鈴木がそうボヤくと、田中もうんざり顔でうなずいた。<br />
「世界中がクール・ビズしてくれりゃあいいのになぁ。でもまあ、たった３日間のことだから、我慢我慢」<br />
　<br />
こうして２人は、右も左も分からない国に出張した。<br />
たった１、２ヶ月でクール・ビズに馴染んでしまっていた田中と鈴木にとっては、摂氏35度でのネクタイ・上着着用は、はっきり言って地獄だ。しかし、地元民である取引先の人物は、炎天下でも涼しい顔でスーツを着こなしていた。<br />
「やっぱ、南国に住んでると、暑さに強い体質になるんでしょうか」<br />
「みたいだな。ああ、あちぃー……」<br />
しかもこの国、電力事情があまりよろしくないらしく、時々停電するのだ。停電すれば、エアコンもストップする。商談中にエアコンが切れた時は、紙の上に並ぶ数字がかすんで見えなくなったほど、頭がぼんやりしてしまった。<br />
ネクタイを取ってしまいたい。上着なんかいらん。<br />
しかし、相手がちゃんとした服装でいるのに、そんな真似はできない。「日本じゃクール・ビズというのをやってましてね」と持ちかける案もあったが、郷に入っては郷に従え、という言葉もある。日本の理屈を押し付けるな、と言われて商談がパーになったら大変なので、ぐっと我慢した。<br />
　<br />
そんな、ふらふらな２日間を過ごし、出張最終日。取引先の社長と、現地の伝統的な料理を食べることになった。<br />
その席に赴いた２人は、その日初めて会う社長の姿に、思わず「おおっ！」と声を上げてしまった。<br />
　<br />
「クール・ビズっすね！」<br />
「ああ、クール・ビズだ」<br />
　<br />
社長は、ノーネクタイ・ノー上着で現れたのだ。まさに、クール・ビズ。<br />
長袖なのが妙だが、これだけ紫外線の強い国だから、腕を覆ってしまった方が涼しいのかも。ちょっとシャツが派手な気もするが、浅黒い肌の社長には、白いシャツよりはずっと似合っている。小泉総理だって「かりゆし」をやっていたのだから、こういう柄物もアリなのかもしれない。<br />
「きっと、日本でクール・ビズやってるの知ってて、真似してくれたんですね。俺たちが我慢してこの国の慣習に合わせたから、最後に日本に合わせてくれたんですよ」<br />
「いい人だなぁ……日本の流行にも精通してるなんて」<br />
「そうっすねぇ……やっぱり、ここと取引して正解だったっすね」<br />
田中と鈴木は、社長の粋な演出に感激し、取引が成功してよかったなぁ、と心から思った。その夜の会食は、非常に和やかなものとなった。<br />
　<br />
　<br />
田中と鈴木は、知らなかったのである。<br />
インドネシアでは、バティック織りの長袖シャツが、男性の正装だということを。<br />
</td></tr></table><br />
今日の教訓：あなたの常識、世界の非常識</p>]]>

</content>
</entry>
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<title>コンクラーベ</title>
<link rel="alternate" type="text/html" href="http://www.will-way.com/wan_will/alpha/cap/archives/2005/05/post_3.html" />
<modified>2007-02-21T09:23:53Z</modified>
<issued>2005-05-14T15:00:00Z</issued>
<id>tag:www.will-way.com,2005:/wan_will/alpha/cap//21.569</id>
<created>2005-05-14T15:00:00Z</created>
<summary type="text/plain">「根比べ」と似てるなぁ、と誰もが一度は思いながらも指摘できずにいたら、メディアで...</summary>
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<name>きゃぽ</name>

<email>cap_ml@classix.jp</email>
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<dc:subject>2005年のコトバ</dc:subject>
<content type="text/html" mode="escaped" xml:lang="en" xml:base="http://www.will-way.com/wan_will/alpha/cap/">
<![CDATA[<p>「根比べ」と似てるなぁ、と誰もが一度は思いながらも指摘できずにいたら、メディアで最初にその微妙に寒いギャグを口にしたのは、案の定、小泉首相であった。予想通りといえば、予想通り。<br />
という訳で、一国の首相も注目のコトバ。カトリック教会の教皇を選出するための選挙のことである。教皇の死去に伴い、世界中の80歳未満の枢機卿がバチカンに集結、投票で次の教皇（いわゆるローマ法王）を選ぶ。<br />
コンクラーベ（Conclave）とはラテン語で「鍵のかかった」という意味。その意味通り、コンクラーベで枢機卿たちは、投票所であるシスティーナ礼拝堂に、ほぼ軟禁状態にされる（現在は「マルタの家」に滞在するらしいが、結局それも軟禁に近い）。<br />
教皇決定まで、外部との連絡は禁じられており、現代らしく、盗聴や携帯電話への対策も万全らしい。妨害電波まで用意しているというのだから、その徹底ぶりたるや、ちょっとやりすぎじゃないの、と思ってしまうほど。マスコミ泣かせなシステムだ。<br />
なんだってそんなに秘密にするのだろう？　投票の経緯を知られると、何かまずいことでもあるのだろうか。<br />
隠されると、覗きたくなる。これは人間の浅ましい本能である。でもまあ、全世界のカトリック教徒を束ねる教皇を選ぶという選挙なのだから、覗いたところで、ただ粛々と選挙が執り行われているだけだろう。<br />
……多分。おそらくは。<br />
<table border="0" cellpadding="10"><br />
<tr><td bgcolor="#e5f2ff">むかしむかし。とある国の、偉大なる国王が亡くなった。<br />
この国では、国王は世襲制ではなかった。その昔、無能な２代目のせいで、国が大きく傾いてしまったことがあったので、その次の代から世襲制は廃止になったのだ。<br />
では、どうやって次の国王を決めるのか。<br />
実は、この国では、国中の領主の中から、話し合いによって次の国王を選出するのである。<br />
国王が死去して間もなく、国中から領主という領主が、王宮の広場に集められた。<br />
新国王誕生の瞬間に立ち会おうとする大勢の一般国民が取り囲む広場の中央で、高級な喪服に身を包んだ領主たちは、一昼夜、偉大なる国王の死を悼んで祈りをささげた。<br />
そして翌日、いよいよ、新国王選出のための話合いが始まったのだが……。<br />
　<br />
　<br />
「わたしは15年にわたり領主を務めておりますが、この15年間の我が領地の作柄は、国でもトップ5に入るほどでして……」<br />
「そうは申されるが、あなたの土地は、元々国内で一番肥沃で恵まれた土地でしょうが。それに比べて私は、荒れ果てた土地を前領主から譲り受け、それをここまで……」<br />
「作柄の自慢話では埒が明きません。第一、これからは商業と工業で近代化を図っていくべきですぞ。その点、うちは国内トップの商業都市ですし……」<br />
「何を言うか。ここ100年、北部の領主ばかりが新国王に選ばれてきたではないか。いい加減、南部の領主にも回していただかなくては」<br />
　<br />
穏やかに始まった筈の話し合いは、次第に泥沼化の様相を呈し始め、領主たちの目は、だんだん血走ってきた。<br />
それに加えて、見物している国民が、自分の出身地の領主を応援しようと野次や声援を飛ばすようになり、厳かなムードだった王宮広場は、日が暮れる頃には、どこかの国の野党と与党の野次合戦のような感じになってしまっていた。<br />
　<br />
西の領主が、東の領主の頭を叩いたのが発端だったのか。<br />
それとも、北の領主が、南の領主のカツラをひっつかんで放り投げたのが発端だったのか。<br />
深夜には、領主同士の掴み合いの喧嘩が始まり、その興奮は、見物している国民にも広まった。<br />
　<br />
貴賎入り乱れての乱闘に次ぐ乱闘。<br />
殴られて地面に転げる者、髪を毟られてわんわん泣き喚く者、お前の母ちゃんデベソなどという低俗極まりない侮蔑を言い合う者、その場のムードに怯えてしまいマントの下に隠れている者―――そんな状態が延々続いた。<br />
そして、空が白み始める頃には、誰も、文句を言う気力すらない状態に陥って。<br />
　<br />
「……もう、エラソーダ州の領主でいいんじゃないの？」<br />
という議長の言葉が、そのまま決定事項となり、新国王は、うやむやのうちに決定してしまった。<br />
　<br />
　<br />
こうして、新国王が誕生し、国は再び平和を取り戻した。<br />
……筈もなく。<br />
　<br />
こんな成り行きで決まった国王なんて誰が認められるか、と国民は大激怒。各領主は、それぞれの地元の民衆から、国王決定会議の時の情けない姿を非難され、多くの領地で暴動が発生。国内は大混乱に陥った。<br />
こりゃいかん、と一致団結した領主たちと国の軍隊が、次々に発生する民衆暴動をおさめて回ったが、国がようやく落ち着きを取り戻すまで、実に2年もの歳月がかかってしまったのだった。<br />
　<br />
　<br />
以来。<br />
この国では、新国王決定会議は、非公開とされた。<br />
　<br />
王宮の奥深く―――そこで、どんな会議が行われているのか、国民は全く知らない。<br />
</td></tr></table><br />
　<br />
本日の教訓：人間、知らない方が幸せなこともある。<br />
（この話は、あくまでフィクションです。カトリック信者の方、お願いですから本気で怒らないで下さい……いや、ほんとに）</p>]]>

</content>
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<title>バイオメトリクス</title>
<link rel="alternate" type="text/html" href="http://www.will-way.com/wan_will/alpha/cap/archives/2005/03/post_2.html" />
<modified>2007-02-21T09:23:47Z</modified>
<issued>2005-03-15T13:41:46Z</issued>
<id>tag:www.will-way.com,2005:/wan_will/alpha/cap//21.430</id>
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<summary type="text/plain">「バイオメトリクス」とは「生体認証」のこと。指紋とか静脈とか目とか声とか、そうし...</summary>
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<name>きゃぽ</name>

<email>cap_ml@classix.jp</email>
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<dc:subject>2005年のコトバ</dc:subject>
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<![CDATA[<p>「バイオメトリクス」とは「生体認証」のこと。指紋とか静脈とか目とか声とか、そうしたもので個人を識別するシステムを、こう呼ぶ。<br />
キャッシュカードやクレジットカードの偽造は、随分と前から行われていたスタンダードな犯罪だが、最近ではあらゆる方法を駆使して、最後の砦の筈の暗証番号を入手する犯罪が多発している。ゴルフ場を舞台とした事件以来、ＡＴＭ機の前に立つとつい隠しカメラの姿を探してしまう癖がついてしまった人は、少なくないだろう。<br />
カードは偽造されてしまう。暗証番号ももうあてにならない。そこで登場したのが、バイオメトリクスだ。<br />
指紋のように１人１人異なるものを、大切な財産を守る最後の鍵としてしまえば、本人にしかその鍵を開けることはできない、という理屈。なるほど。もの凄く安全な方法だ。<br />
ただし、もの凄く安全な方法というのは、もの凄く不便な方法ともいえる。銀行口座の名義人にしか金の引き出しができなくなるのだとしたら、夫の銀行口座から家計を引き出して家計管理をしている妻はどうなってしまうのか？　会社名義の口座なんかも、社長の情報で登録してしまったら、経理の女の子はどうすりゃいいのだろう？<br />
「大丈夫、生体情報だって、結局はコンピューターに取り込まれた時点でデータに変換されるんです。そのデータを記録したカードを使えば、本人じゃなくても認証パスできますよ」<br />
……いや……それじゃ意味ないんじゃあ……。<br />
<table border="0" cellpadding="10"><br />
<tr><td bgcolor="#e5f2ff">　<br />
　その日、男は、ちょっとした不幸に見舞われた。<br />
　仕事中に無意識に目を擦ったせいか、目にできた“ものもらい”が悪化して、前がよく見えないほどに目が腫れ上がってしまった。<br />
　考え事をしながら煙草を吸っていて、うっかり長くなった灰を書類に落としそうになり、咄嗟にそれを手で受け止めて、手のひらに派手な火傷を負った。<br />
　元々風邪気味だったところに、夕方から雪まで降ってきたため、本格的な喉風邪をひいてしまった。<br />
　１つ１つの不幸は、さして大きな不幸ではないだろう。<br />
　しかし―――真の不幸は、この後に……彼が営業先から会社に戻ってきた時から始まるのだった。<br />
　<br />
<center>＊＊＊</center>　<br />
　『社員確認をします。眼鏡を外し、センサーに右目を近づけて下さい』<br />
　<br />
　１階の受付にそびえたつ、無機質な銀色のドア。その横に設けられた社員認証システムは、男に無理難題を強いてきた。<br />
　このシステムは、社員一人一人の右目の虹彩パターンを記憶しており、その記憶されたパターンと来訪者の虹彩を比較、同じものがあれば社員とみなして扉を開ける、という仕組みである。だから社員は、出社時や外出先から戻った時、必ずこの装置のカメラ部分に右目を近づけて、社員かどうかのチェックを受けなくてはいけないのだ。<br />
　男の右目は、今、パンパンに腫れ上がっている。目も半分開いていないような状態だ。<br />
　―――こんな状態で、虹彩なんて読み取れるのかよ。<br />
　不安に思いながらも、男は、腫れ上がった右目をカメラへと近づけた。普段なら、すぐに青い光が見える筈なのだが、今の男の目には、瞼の下から僅かに射し込む青白い光がなんとか見えるだけだった。<br />
　<br />
　『認識不可能。もう一度はじめからやり直して下さい』<br />
　<br />
　やっぱり無理だった。<br />
　社内の人間に連絡を入れて迎えに来てもらおうと、インターホンで呼び出してみた。ところが、いつもなら数人まだ残業している筈の時間だというのに、反応なし。雪の影響で交通機関がストップするのを懸念して、ものの見事に全員帰宅してしまっていたのだ。<br />
　もう会社に戻るのは諦めた。男は深いため息をつくと、俺も電車がストップする前に帰るか、と心の中で独り言を呟きながら、硬く閉ざされたドアの前から離れた。<br />
　<br />
<center>＊＊＊</center>　<br />
　『住人チェックをします。部屋番号とお名前をどうぞ』<br />
　<br />
　自宅マンションのエントランスで、マンション管理システムが、またもや男に無理難題を強いてきた。<br />
　別段高級マンションな訳でも、政府要人が住んでいる訳でもない。ここ５年以内に建てられた家ならば、こうしたシステムがついているのが当たり前。２０世紀に建てられた古めの建物だって、後づけでどんどん設置している。おかげで空き巣被害は激減したし、不審者が独身女性の部屋に押し入るなんて事態も稀な事件になったのだ。<br />
　しかし―――よりによって音声認識システムのマンションを選んでしまったのは、ちょっとまずかったかもしれない。<br />
　風邪の悪化で声の出ない男は、ゲホゲホと苦しげに咳をしながら、こんな声でも認識できるのかよ、と不安を覚えた。<br />
　<br />
　「５０２、池田信之助」<br />
　ほとんど聞き取れないほどの掠れた声で、機械に向かって部屋番号と名前を告げる。直後、集音マイクの横のランプが赤く点灯した。<br />
　『認識不可能。もう一度どうぞ』<br />
　「……５０２、池田信之助」<br />
　一旦消えた赤ランプが、また点灯した。<br />
　『認識不可能。もう一度どうぞ』<br />
　「５、０、２、いげだじんのずげっ！！！」<br />
　必死に怒鳴ったのに、その声は内緒話に最適レベルにしかならなかった。叫んだせいで、喉の奥が大量の唐辛子でも飲み込んだみたいに痛い。思わずまた咳き込む男の目の前で、無情に赤ランプが点灯した。<br />
　『認識不可能です。不審者アクセス。管理会社に通報します』<br />
　淡々としたアナウンスに、ギョッとして目を見張る。<br />
　そうだ、忘れていた―――３回認識不能を起こすと、機械の故障もしくは不審者が無理矢理乱入しようとしているとみなして、自動的に管理会社に通報がいくのだ。入居したての頃、機械の故障でこの事態を一度経験している男は、この後に待ち構えるものを想像して、ぞっとした。<br />
　<br />
　駆けつけた管理会社の連中がまず最初にやることは、侵入しようとした人物が果たして本当に住人かどうかを確認することだ。<br />
　その際使うのは、このエントランスと同じ音声認識システムだ。本人の言葉なんてあてにならないし、免許証やＩＤカードは偽造されるものと相場が決まっているから。<br />
　住人本人と確認されれば問題ない。しかし…本人確認ができなかった場合は、そのまま警察に突き出す。それが管理会社のマニュアルに規定された正規の手続きだ。<br />
　<br />
　―――冗談じゃない、自宅に帰ろうとしただけなのに、警察なんかに突き出されてたまるかっ！<br />
　<br />
　管理会社が駆けつけるまでの猶予は、僅か５分。男は、自宅に帰ることを諦めて、赤ランプが点灯したままのエントランスから逃げ出した。<br />
　<br />
<center>＊＊＊</center>　<br />
　辺りはすっかり漆黒の闇に包まれていた。<br />
　ようやく雪の止んだ２月の街を、男はコートの襟を精一杯寄せて歩いていた。だるい。もの凄くだるい。どうやら風邪が更に悪化して、熱まで出てきたらしい。<br />
　会社には潜り込めない。家にも帰れない。けれど、この寒さの中、屋外で一晩過ごしたりすれば、体調が体調なだけに明日には死体となって転がっていること確実だ。かくなる上は、とるべき行動はただ１つ―――どこかホテルに泊まること。<br />
　ところが男には、大きな問題があった。とりあえず腹ごしらえを、とファミレスで夕飯を食べた結果、手持ちの現金が３千円あまりになってしまったのだ。<br />
　勿論、クレジットカードは持っている。が、また運の悪いことに、男が使っているクレジット会社の本人確認も音声認識。ホテルのフロントでカード会社のマイクに向かって名前を怒鳴った結果、どんな事態に陥るかは想像に難くない。<br />
　そんな訳で、男が向かったのは、銀行のＡＴＭコーナーだった。<br />
　<br />
　<br />
　キャッシュカードをＡＴＭに挿し込むと、液晶パネル横にある手の形をした台のランプが点灯した。<br />
　<br />
　『読み取り機の上に、左手の手のひらを置いて下さい。掌紋をチェックします』<br />
　<br />
　掌紋とは、手のひらの皮の隆起の紋様のことで、指紋と同じで１人１人異なっている上に一生変わらない。暗証番号代わりに、今は掌紋で本人確認をするのだ。<br />
　やれやれ、とポケットに突っ込んでいた左手を引っ張り出した男は、その段になって、重大な事実に気づいた。<br />
　左手の手のひら中央に、まるで手相を覆い隠すように貼られた、大きな絆創膏―――煙草の灰を受けて派手に火傷をしてしまった際、今日訪問した客先の事務の女性が手当てしてくれたものだ。<br />
　「……まずい」<br />
　このまま読み取り機に乗せたところで、読み取れないのは目に見えている。<br />
　かといって、絆創膏をはがすのには、かなりの勇気がいる。昼間、客先で出されたお茶を飲んだ時のことが思い出される―――普段なら何ともない温度に温まった湯のみが、男にとっては凶器だった。火傷した場所が湯のみに触れると同時に激痛が襲ってきて、男は悲鳴とともに湯のみをひっくり返してしまったのだから。<br />
　<br />
　『読み取り機の上に、左手の手のひらを置いて下さい。掌紋をチェックします』<br />
　<br />
　踏ん切りのつかない男を急かすように、ＡＴＭ機がまた指示してくる。絆創膏に覆われた手のひらをじっと見つめ、男はまだ迷っていた。<br />
　<br />
　『読み取り機の上に、左手の手のひらを置いて下さい。掌紋をチェックします』<br />
　『読み取り機の上に、左手の手のひらを置いて下さい。掌紋をチェックします』<br />
　『読み取り機の上に、左手の手のひらを置いて下さい。掌紋をチェックします』<br />
　<br />
　度重なる催促に、男は負けた。<br />
　べりっ、と絆創膏をはがすと、一部傷にくっついていたのか、かさぶたを無理矢理はがしたような痛みに襲われた。半分涙目になりながら確認すると、手のひらの真ん中、直径１センチほどの生々しい火傷の痕から、僅かに血が滲み出していた。<br />
　こんな傷があって、果たして掌紋の照合ができるのかどうか、ちょっと不安がよぎる。<br />
　でも、やるしかない。<br />
　このまま現金を引き出すことができなければ、２月の寒空の下で凍死決定だ。<br />
　意を決した男は、痛々しい傷跡のある左手を、半ばやけになって読み取り機の上に置いた。<br />
　<br />
　『掌紋チェック開始』<br />
　<br />
　無機質な声と同時に、読み取りランプの光が、男の手のひらを舐めていった。指のつけ根辺りから順に、僅かに熱を持った光が、男の掌紋を読み取っていく。<br />
　ランプが発する熱は、普段なら気にならない程度の熱の筈だ。しかし、今の男には、これすら凶器だった。<br />
　コピー機よろしく、オレンジ色の光が火傷痕を掠めた途端。<br />
　<br />
　「だああああああっ！！！」<br />
　<br />
　激痛。<br />
　火傷の上から更に火傷を負ったような痛みに、男は断末魔のような叫び声とともに飛びすさった。もっとも、腫れ上がった喉から搾り出されたその叫びは、掠れていてほとんど聞こえなかったのだが。<br />
　掌紋を最後まで読み取れなかった読み取り機は、赤ランプを点灯させると同時に、無機質な声で告げた。<br />
　<br />
　『掌紋不一致です。もう一度はじめからやり直して下さい』<br />
　<br />
　「うるせええぇっ！」<br />
　頭に血の上った男は、左手の痛みのせいで震えてしまっている右の拳を、怒りに任せて読み取り機にめりこませた。<br />
　液晶でできた読み取り機は、男のパンチを食らって破壊された。直後―――ＡＴＭコーナーのシャッターが閉まり、ビーッ、ビーッという耳をつんざくような警報音がＡＴＭコーナーの狭い空間に響いた。<br />
　<br />
　『緊急事態発生、緊急事態発生、警備会社ニ通報シマシタ』<br />
　<br />
　男の不幸な夜は、まだまだ続く―――……。<br />
</td></tr></table><br />
本日の教訓：生体認証時代では、ケガや病気はタブーかも。（そうならない技術を開発しましょう）</p>]]>

</content>
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<title>ニート</title>
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<modified>2007-02-21T09:23:35Z</modified>
<issued>2005-01-14T15:13:58Z</issued>
<id>tag:www.will-way.com,2005:/wan_will/alpha/cap//21.108</id>
<created>2005-01-14T15:13:58Z</created>
<summary type="text/plain">「ニート」とは「Not in Employment, Education or ...</summary>
<author>
<name>きゃぽ</name>

<email>cap_ml@classix.jp</email>
</author>
<dc:subject>2005年のコトバ</dc:subject>
<content type="text/html" mode="escaped" xml:lang="en" xml:base="http://www.will-way.com/wan_will/alpha/cap/">
<![CDATA[<p>「ニート」とは「<b>N</b>ot in <b>E</b>mployment, <b>E</b>ducation or <b>T</b>raining」の略で「NEET」。という訳で、直訳するなら「就職しておらず、学校にも通っておらず、そして就労に向けた具体的な動きをしていない」人のことを言う。<br />
昨年辺りから、就業率関係のニュースになると必ずこの言葉が引き合いに出されるようになった。そろそろ認知度も上がってきたというところだろうか。</p>

<p>その昔、「プータロー」というどうにもセンスのないコトバが流行っていた時代があった。いわゆる就職浪人がこう呼ばれていたのだが、この情けない響きからも分かるように、就職できないことは当時かなりショッキングなことだった。プータローになってしまった若者は、正社員になることを夢見つつ、アルバイトに励んだ。そんな時代だった。<br />
しかし、景気が悪くなったせいか、若者の就業意欲が低下したせいか、しばらくするとプータローは「フリーター」という、ちょっとカッコ良さげなコトバにとって代わられた。フリー・アルバイターの略で、正社員にはならないし、特定の仕事には就かないけれど、アルバイト先を転々としながら食い繋いでいる人をこう呼ぶ。<br />
プータローとの大きな違いは、彼らの多くが「望んでフリーターでいる」という点だ。就職したいけど無理、という人もいるが、フリーターの方が楽、という若者が急増したため、こうした言葉が生まれたと思われる。<br />
そして新たに登場したのが「ニート」である。これはフリーターよりもっと辛い。学校に行っていない上に、アルバイトもしていない。じゃあ何をしてるんだ、となると、実は何もしていない。親に養われながら、無目的に生きているのである。</p>

<p>就職する年齢になってもアルバイトしかできないのが「情けない」時代のプータロー。「別に生涯アルバイトでもいいじゃん」という時代になったフリーター。そしてアルバイトすらしない人種が増殖中の現代のニート。若者は、どんどん何もしなくなっている。<br />
本来許されないことが、コトバが生まれるほどに蔓延しているのは、そうした若者を養っているくたびれた親がいるからなのだが、ニートたちがくたびれた親になる頃の日本を想像すると、かなり怖いものがある。<br />
できればその前に日本を脱出したいと思うのは、私だけだろうか？</p>

<table border="0" width="100%" align="center" cellpadding="8" cellspacing="0"><tr><td bgcolor="#e0e5e8">

<p>雨にも負けて<br />
風にも負けて<br />
雪にも夏の暑さにもうんざりして<br />
太陽に当たらない不健康な体を持ち<br />
これと言った欲はなく<br />
その割には社会全般に対して怒っており<br />
でも文句を言う元気はないから黙っている<br />
一日にポテトチップス１袋と<br />
母の作る料理を適当に食べ<br />
あらゆることを<br />
自分とは関係ないことさと聞き流し<br />
ニュース番組などには興味なく<br />
見たとしてもその内容をほとんど忘れ<br />
日本のどこかの町の<br />
ウサギ小屋のような家の片隅にいて<br />
東に「オレ、上司とやりあっちゃったよ」とうな垂れる友あれば<br />
行って「そんな会社は辞めてしまえよ」と誘惑し<br />
西に「ゼミのレポート提出が間に合いそうにない」と嘆く友あれば<br />
行って「お歳暮を届けて誤魔化してしまえ」と知恵を授け<br />
南に「就職試験、また落ちちまった」と落胆する友あれば<br />
行って「就職しなくたって生きていけるぞ」と慰め<br />
北に日頃の鬱憤を放火で紛らわそうとする仲間あれば<br />
つまらないから止めろと言い<br />
日照りの時は軒下に逃げ込み<br />
寒さの夏はこりゃいい気候だなと喜び<br />
みんなにデクノボーと呼ばれ<br />
褒められもせず<br />
でも多分苦にはされてると思う<br />
そういう者に<br />
<b>私はなりたくない</b><br />
</td></tr><br />
</table></p>

<p>本日の教訓：ニートと呼ばれたら恥だと思え。間違っても「僕、ニートでーす」などと喜ぶなよ、新成人。</p>]]>

</content>
</entry>
<entry>
<title>新規参入</title>
<link rel="alternate" type="text/html" href="http://www.will-way.com/wan_will/alpha/cap/archives/2004/11/post.html" />
<modified>2007-02-21T09:23:55Z</modified>
<issued>2004-11-12T05:09:28Z</issued>
<id>tag:www.will-way.com,2004:/wan_will/alpha/cap//21.65</id>
<created>2004-11-12T05:09:28Z</created>
<summary type="text/plain">　「新規参入」という極めて汎用的なコトバ。今年に入ってからはそれが、まるでプロ野...</summary>
<author>
<name>きゃぽ</name>

<email>cap_ml@classix.jp</email>
</author>
<dc:subject>2004年のコトバ</dc:subject>
<content type="text/html" mode="escaped" xml:lang="en" xml:base="http://www.will-way.com/wan_will/alpha/cap/">
<![CDATA[<p>　「新規参入」という極めて汎用的なコトバ。今年に入ってからはそれが、まるでプロ野球界の専門用語のような様相を呈している。野球なんて知らん、という私でも野球界の裏事情を知る羽目になったほど、話題になっているコトバだ。<br />
　新規に参入する奴がいる、ということは、元々その業界にいた奴らがいる、ということに他ならない。<br />
　そして、元々その業界にいる連中が少人数で、しかもやたらと長い時間その連中だけで業界を牛耳っていると、新規参入は難しくなる。何故ならそこに「業界のボス」が出来上がり、「○○王国」なんてものが築かれてしまうからだ。<br />
　王国の王様は、大抵の場合、わがままである。でもって、今いる仲間を維持することには積極的で、この居心地の良い王国を乱しそうな新顔を仲間に入れることには消極的である。野球界も、どうやらそれに近い構図が出来ていたようだ。<br />
　だから、球界再編でゴタついた今、「新規参入」というコトバは「斬り込み隊長」的なニュアンスを持って使われることが多い。<br />
　旧体制がのさばる球界への「斬り込み隊長」が、どれもこれも時代の寵児・ＩＴベンチャーだったのは、もしかしたら必然なのかもしれない。何故ならＩＴベンチャーは、元々経済界の「斬り込み隊長」だったと言っても過言ではないのだから。</p>

<table border="0" width="100%" align="center" cellpadding="8" cellspacing="0"><tr><td bgcolor="#e0e5e8">

<p>　洒落たレストランのドアをくぐってから３０分。智代は、先ほどから目の前で展開されるやたらハイソサエティな会話に、少々うんざりし始めていた。</p>

<p>　智代が半月前に越してきたこの地域は、大豪邸がずらりと建ち並んでいることで有名な、いわゆる“お屋敷街”だった。そして何故か、月に１度、ご近所の主婦が集まって開かれる“昼食会”への参加が半ば義務付けられていて、今日は智代にとってその“昼食会”初参加の日なのだ。<br />
　大企業の社長の家や著名な政治家の家が建ち並んでいる地域だけのことはある。その妻も、相当にハイレベルだ。隣の主婦に無理矢理連れ込まれた“昼食会”の話題は、平凡な会社員の家庭に育ち、普通に会社勤めをしていた智代には理解不能な内容だった。<br />
　「お爺様の別荘でこのほどお茶会をいたしましてね。××大臣がいらっしゃいましたのよ」<br />
　「まあ、さすがは京子さん。お付き合いなさってる方の格が違いますわぁ」<br />
　オホホホホ、と周囲からの賛辞を受けて上品に笑っている派手な外見のこの女性は、いわばこの地域のボスである。日本人なら誰でも知っている、という旧財閥系の大企業の社長夫人で、本人も政治家の孫なのだそうだ。地域の親睦を深めるとの名目のこの“昼食会”も、その実態は、この京子夫人が超ハイレベルな交友関係を自慢しては、周囲の社長夫人たちが「素晴らしいですわねぇ」と感心し続ける会に等しいようだ。<br />
　智代とて、社長夫人のはしくれである。にしても、京子夫人のヨイショ大会のようなこのノリには、少々ついていけない。適当に嘘をついて中座してしまおうか、なんて考えが頭をよぎる。<br />
　―――いや、そんなこと言ってちゃダメだわ。他の奥さんたちも本音では迷惑してる感じだもの。お嬢様育ちの有閑マダムに負けるもんですか。<br />
　後ろ向きになりそうな自分を叱責し、智代は密かにテーブルの下で握りこぶしを固めた。</p>

<p>　「ところで、智代さんのご主人は、どちらの会社でしたっけ」<br />
　向かいの家の夫人が、今思い出したように智代に尋ねた。<br />
　「○○エンターテイメントです。ご存知かしら」<br />
　「まあっ！　そこって、韓国映画などを手掛けてらっしゃる映画配給会社ですわよね」<br />
　実際には韓国映画だけではなく、アジア映画全般を得意としている配給会社である。アジア映画が今ほど人気のなかった８０年代後半、「これからはアジアだ」と予感した夫が、当時誰も見向きもしなかったアジア系映画専門の配給会社として立ち上げた。いわば、ベンチャーのはしりである。<br />
　昨今の韓国ブームなどのおかげで、当時社員１０名だったとは思えない程の巨大企業に成長し、こんなお屋敷街に豪邸を建てるほどになった。時代の寵児、などと言われて、経済雑誌にも夫は時々登場しているのだ。<br />
　「良かった。ご存知なのね」<br />
　「ええ、ベンチャーの成功例として、随分注目されてましたもの」<br />
　数名の夫人が、そんな風に好意的な相槌を打ったが、そこに鶴の一声が割って入った。<br />
　「○○エンターテイメント？　聞いたことないわねぇ……。ごめんなさい、わたくし、一流企業しか存じ上げなくて……」<br />
　京子夫人のノンビリした言葉に、場がシン、と静まり返る。<br />
　―――そりゃ……そりゃ、あんたの旦那の会社から見りゃ二流、いや三流でしょうけど。<br />
　なんて嫌味な女なんだ。智代の眉がピクリと上がりかけたが、ここは我慢だ。再び、膝の上の拳をぎゅっと握り締めた。<br />
　「あ……あの、それで、ご主人とはどんな馴れ初めで？　確か結構歳が離れてましたでしょ」<br />
　また向かいの家の主婦が気を遣って話を振ってくれた。不愉快さに頬がひくついてしまいそうなのを堪えながら、智代はなんとか答えた。<br />
　「ええ、実は、職場結婚なんです。主人の会社で私が働いてまして……」<br />
　そこまで言いかけた時、またしても京子夫人が口を挟んだ。<br />
　「まあ、智代さん、働いたことがおありになるの。わたくし、留学先から戻ってすぐ結婚してしまったので、働いたことがございませんの。さぞご苦労が多いでしょうねぇ……会社勤めなんて」<br />
　「―――……」<br />
　立ち上がって、真っ赤なルージュに彩られたその口を、洗濯バサミで挟んでやりたくなった。<br />
　がしかし、ここでも我慢。他の夫人連が「そうですわねぇ」と相槌を打たないことがせめてもの救いだ。智代は今度も、きわどい所で怒りをなんとか体の内に飲み込んだ。<br />
　「け、けど、最近は“韓流”ブームですし、お忙しいでしょう」<br />
　隣の席の夫人が、引きつった笑顔で話を進めたが、今回はその言葉をも京子夫人が取り上げた。<br />
　「そうそう、“韓流”と言えば―――わたくし、先日、韓国の友人からソン様の直筆サインをいただきましたのよ」<br />
　「えっ」<br />
　夫人たちの目が、一斉に京子夫人に向けられた。ソン様、と彼女が呼んでいるその人物は、日本では人気ナンバーワンを誇る超売れっ子の韓国スターなのだ。世の主婦連同様、夫人たちもスターには弱いらしい。<br />
　自分の一言に、夫人たちが羨望の眼差しを一斉に向けたことに満足したらしく、京子夫人は自慢げな笑みを顔一面に花開かせた。<br />
　「しかも、ソン様のプライベート写真に“ミセス京子へ”って言葉まで添えてくださったのよ。やっぱり素敵な方ねぇ、ソン様って」<br />
　「まぁ……羨ましいわぁ……」<br />
　「ほんとに。私も、ただの色紙でいいから、ソン様のサインが欲しい……」<br />
　うっとりした顔で相槌を打つ夫人たちに、改めて“ソン様人気”を思い知った智代は、そんなに欲しいなら、と、思わず口を挟んでしまった。<br />
　「なんなら私、もらってきましょうか？」<br />
　「えっ！！！」<br />
　今度は、京子夫人も含めた夫人連全員の目が智代に集中する。その迫力にちょっと気圧されつつ、智代はおずおずと言葉を進めた。<br />
　「私、通訳として夫に常に同行してますし、俳優さんが来日された際は私が案内役としてつくことが多いので、大抵の俳優さんはお友達なんです。ソンさんも、家族ぐるみのお付き合いですよ。だから多分、頼めばサイン位もらえると思いますけど」<br />
　「……ほ、ほんとに？」<br />
　「ええ。うちにも多分、探せば転がってると思いますよ、ソンさんのサイン。別に頼んだ訳じゃないのに、記念品代わりにサインとか写真とか仕事で使った小道具とかをくれますもの、ソンさんに限らず、皆さん。夫とも冗談まじりに“こりゃ映画スターミュージアムができるな”って時々笑ってるんですよ」<br />
　「……」<br />
　「あ、そう言えば、来週仕事で私も韓国行きますから、その時にでももらってきましょうか」<br />
　「智代さん、今も現役で働いてらっしゃるの？」<br />
　「ええ。来週の出張も仕事仕事で時間があまりないかもしれませんけど……会えたら、もらってきますよ、サイン位なら」<br />
　―――ゴクリ。<br />
　夫人たちが唾を飲み込む音が、聞こえた気がした。<br />
　その中でも一番真剣な眼差しで智代を凝視しているのは、他でもない、京子夫人だった。さりげなさを装ってはいるが、実はかなりのファンだったようだ。<br />
　彼女の心の中で、プライドと好奇心が戦っているのが見える気がする。しばし、何か言いたそうに口元をムズムズさせていた京子夫人だったが、１分間の沈黙の後、とうとうこう言った。<br />
　「―――ねぇ、皆さん？　次の昼食会は、智代さんのおうちにしませんこと？」<br />
　飽くまで、高飛車な声音。しかし、目は完全に、智代に媚びていた。<br />
　おそらくは、同じことを考えていたのだろう。夫人たちも、京子の一言に安堵したようにおずおずと声を上げる。<br />
　「そ……そうですわね」<br />
　「素敵だわ。是非私もご一緒させて」<br />
　「私も是非。智代さん、ご迷惑じゃないかしら」<br />
　ひたすら媚びた態度を取る有閑マダムたちを一瞥した智代は、どうしようかな、と迷うようなフリをした後、躊躇いを残したような声音で夫人たちに告げた。<br />
　「わかりました。皆さんがどうしてもとおっしゃるなら―――…」</p>

<p>　―――勝った。</p>

<p>　この瞬間、智代が心の中でニヤリとほくそえんだことは、言うまでもない。<br />
</td></tr><br />
</table></p>

<p>本日の教訓：王様も、権力に弱い取り巻きたちも、ミーハーには勝てず。</p>]]>

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<title>ごあいさつ</title>
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<modified>2007-02-21T09:23:55Z</modified>
<issued>2004-11-12T05:08:08Z</issued>
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<summary type="text/plain">毎日毎日、たくさんのニュースが、新聞に、テレビに、ネットに飛び交います。 そこに...</summary>
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<name>きゃぽ</name>

<email>cap_ml@classix.jp</email>
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<dc:subject>ごあいさつ</dc:subject>
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<![CDATA[<p><img src="http://psychedelic-note.vivian.jp/willway/mt-fukusuke.gif" width="138" height="117" alt="何卒ごひいきに。" align="right">毎日毎日、たくさんのニュースが、新聞に、テレビに、ネットに飛び交います。<br />
そこに登場する、たくさんのコトバ。<br />
使い古されたコトバ、昨日まで外国語だったコトバ、１０代には通じても５０代にはもはや宇宙言語に近いコトバ、先週生まれたと思ったら今週にはもう消えていたコトバ……実に多種多彩なコトバで、私達の日常は彩られています。<br />
時代を映す鏡として、酷使され、消耗し尽くされたコトバたちは、一部を除いて、その役目を終えるとひっそりと消えていきます。１０年後、２０年後にそのコトバを聞いて「ああ、そんなこともあったっけね」と思ってもらえるコトバは、きっと幸せな方でしょう。大半は「何それ」と言われる運命にあります。<br />
そんなコトバたちをお題に、ちょっとした辛口コラムとショートショートをお届けする。<br />
それが<strong>、「ツレヅレナルコトバ」</strong>です。</p>

<table border="0" cellpadding="5" cellspacing="0" width="98%"><tr><td bgcolor="#bac6d8">
<strong>●筆者（きゃぽ）プロフィール●</strong><br>
神奈川県生まれ、日本各地育ち、現在大阪在住。<br>
職業はWebデザイナー。ただしデータ入力もDTPもやる、つまりはなんでも屋。<br>
執筆歴は人生の半分以上。「結城とも」というのがモノカキとしてのかりそめの名前。でも、人生の大半をこの名前で生きてきたので、最近はどっちが本名か曖昧になりつつある。<br>
現在、SOHO系サイト「<a href="http://www.classix.jp/cap/" target="_blank">Cafe Andantino</a>」と、小説サイト「<a href="http://psychedelic-note.vivian.jp/" target="_blank">Psychedelic Note</a>」を運営中。<br>
小説サイト運営と趣味のカメラに没頭するあまり、仕事に身が入らない今日このごろ。
</td></tr></table>]]>

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