2006年9月

メタボリックシンドローム

最近、どうにもピンとくるコトバがない。
センスがなかったり、逆に笑い飛ばせるほど徹底したセンスのなさではなかったり。こういうコラムを書く人間にとっては、ネタ氷河期である。困ったぞ。
 
そんな中で、やたら耳にするようになったのが、このコトバ。
シンドローム(Syndrome)は「症候群」。マスコミが世相を斬るのに喜んで使うコトバだが、医学用語である。メタボリック(Metabolic)の方は耳慣れないが、「代謝の」という意味。
パッと聞いただけでは、さっぱりわからない。まだ暫定的ではあるが、以下のように定義されているらしい。

1)ウエスト:男性85cm以上、女性90cm以上
2)血圧:最高血圧130mmHg以上 or 最低血圧85mmHg以上
3)中性脂肪値:150mg/dL以上
4)空腹時血糖値:110 mg/dL
5)HDLコレステロール値:40 mg/dL未満
1)に当てはまり、かつ、2~4のうち2つ以上に該当する人は、糖尿病、高血圧症、高脂血症などのリスクが高まる。

1)が前提条件になっているのは、この症候群が「内臓脂肪の過剰な蓄積」によるものだから。ウエストサイズが、内臓脂肪量の目安になるのだそうだ。
「内臓脂肪が溜まりすぎて、血糖値やらコレステロール値やらに複合的に異常をきたしてる状態」。これが、メタボリックシンドローム、らしい。
 
……内臓脂肪が溜まりすぎると成人病になること位、相当昔から言われてた気がするのは、私だけだろうか。
説明を聞くと「何を今更」と思わずにはいられない。なんで今頃、こんなコトバが生まれ、流行しているのだろう?
 
流行には、わけがある。
わけは、今回必須条件として挙げられている、1)だ。
ウエストが、男性85cm以上、女性90cm以上は、危険。
これまでどうやって把握すりゃいいかわからなかった内臓脂肪が、ウエストサイズ、というわかりやすい形で示されたから、ウケているのである。
マスコミもこの部分ばかり強調して、健康診断ではおなか周りも測りましょう、などとやっている。ダイエット好きの女性も大いに気にするサイズなので、この目安数値はあっという間に広まった。
 
しかし。ちょっと、待て。
身長180cm、ウエスト85cmの男性と、身長155cm、ウエスト85cmの女性がいたとする。
前者は危険、後者はセーフ????
 
専門家でも、現在の指針には疑問を持っている人が多いらしい。だからこそ「暫定的な定義」なのだろう。
でも、そんな疑問おかまいなしに、現在、メタボリックシンドロームは絶賛流行中である。85cmと90cmをボーダーと認識して、「なんだ、まだまだ食べられるじゃん」と喜んでいる女性がいそうで、非常に怖いなぁ……。
 
ところで、この流行に乗って、落とした脂肪を現金買取するフィットネスジム、なんてのが登場したらしい。
当ジムのダイエットコースで運動してくれれば、落ちた体重分のお金をキャッシュバックしますよ、ということ。色々考えるもんだなぁ、商売人というのは。
まあこの場合、お金を払ってフィットネスジムに行っているのだから、やっぱり「お金をかけて体重を減らしている」わけで、買い取ってもらえて得しちゃった、とはならない。
だがしかし、企業などもこの流行に注目し、社員の健康増進のために色々工夫している昨今、これと似た社内向けシステムが登場する可能性もある。
たとえば、こんなの。
 
★脂肪削減キャンペーン★
近年増え続ける健康組合の医療費負担の削減と、残念ながら昨年も2名発生してしまった成人病による突然死を食い止めるため、社員全員を対象に、脂肪削減キャンペーンを行います。
当健康組合が提唱するダイエットプログラムを実行していただき、その効果に合わせて金一封をプレゼントします。
1)体重1kg削減毎に、2000円
2)ウエスト1cm削減毎に、3000円
3)メタボリックシンドロームの定義から正常値になった人は、お祝い金3万円
 
***
 
「お……おい、山本、もうやめとけよ」
「いいや、まだまだー!」
「いや、よせって。もうお前は十分やせたよ。それ以上いいって」
「何言ってるんだ、まだまだいけるって!俺はデブだったんだぞ、まだまだ脂肪が残ってる筈だ!」
「そ、そりゃ確かに、この前までのお前はデブだったよ。体重100キロ超えてたもんな。ウエストも100近かったし。でも……今、一体何キロだ?ウエストはどうなった?」
「まー、減ったけどなー。お前よりはまだ太ってるぞ、田中」
「俺は元々、標準よりやせてるんだよっ!お前で標準、これ以上やったらヤバイって!内臓脂肪なんて、もうとっくに燃焼され尽してるんだ、諦めろ!」
「いーや!!!まだどっかに残ってる筈だ!!!なぁに、任せとけ、もう残ってないなら、増やすだけさ。ファミレスのやすーい脂身だらけのステーキでも食い続けりゃ、またすぐ脂肪がつくから。ダイエット食って意外に高いんだよな。ハハハ、一石二鳥」
「意味ないだろっ!」
「賃金カットで苦しんでた矢先に、ダイエットプログラムでどーんと何万も稼いだ俺様だぞ。見てろよー、この体で、がんがん稼いでやる!」

 
本日の教訓:「身を削るようにして働く」の意味を履き違えてはいけない。

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2006年3月

おめでた婚

「できちゃった結婚」(最近は略して「でき婚」なんて言うらしい)という言葉がほぼ定着してきたと思ったら、新たな呼び方が。
それが「おめでた婚」。意味は、「でき婚」同様、結婚する前に妊娠したカップルの結婚、である。
既にそれを表す言葉があるのに、新たな呼び方が登場したのには、実は理由がある。
 
昔は、「結婚前なのにふしだらな!」と眉をひそめられ、世間の目を気にしてひっそり結婚、といったイメージだった「でき婚」。
ところが最近は、なんと4組に1組がこれなんだそうだ。
なんでこうなったか、と言うと、それだけ性が乱れてる、というのもあるが、何より「妊娠でもしないと結婚に踏み切れない」という人が増えたのかもしれない。独身が居心地のいい時代なのかもしれないなぁ。
 
それだけ「でき婚」の人が増えると、結婚する方も祝う方もオープン化していく。昔はあまり褒められた話ではなかった「でき婚」を容認する方へと、社会が(それ以上にブライダル業界が)傾く。
それに伴い、名称問題が浮上した。
「できちゃった」という響きは、なんとなく事故めいたものがある。そんな筈じゃなかった、的ニュアンスが残っているし、やはり昔からのイメージを引きずってる部分も多々ある。
そこで、イメージ一新を狙って登場したのが「おめでた婚」だ。
妊娠のことを「おめでた」と言うし、結婚はめでたい。めでたいこと尽くしだぞ、ということで「おめでた婚」。なるほど。確かにそうかも。
 
ただ、個人的には、この言葉には疑問を感じる。
「でき婚」が「おめでた婚」になるケースというのは、男女双方結婚を望んでおり、いずれ子供も欲しいね、と思っていたところに、嬉しい誤算で早めに子供ができてしまった、というケースだけだろう。
結婚する気のない相手に子供ができ、「責任取って結婚してよ」となるケースは、めでたい、ではなく、諦める、に近い気がする。
 
現在の「でき婚」カップル中、本当に「おめでた婚」なカップルがどの程度を占めているかは、私にもわからない。
夫婦になる覚悟も、親になる覚悟もないまま、責任問題で誕生する家族が増えるのは、あまりいいことではない。実際、離婚率が高く、子供がいる分不幸は大きい。それを容認し、安易な妊娠を助長させるような「おめでた婚」という呼び名は、こうしたケースには使いたくない。
しかし、望んでいた妊娠の結果であれば、「でき婚」という言い方は、本人も、祝う側もやっぱり嫌だ。
もっと他に、いい呼び名はないだろうか。
 


 
「めでたいケースと責任問題のケースで、呼び名を分けるってのはどうでしょう」
「それはまずいよ。世間に“責任取らされました”と宣言するようなもんじゃないか。誰もそんな名称、使わないよ」
「しかし、本当にめでたいカップルについては、旧来の“できちゃった結婚”は、ちょっと……」
「“ハプニング婚”は?」
「いやー、なんかの間違い、って感じがして、嫌だなぁ」
「“アクシデント婚”……違うな。もっとまずいよな」
「でも、男にとっては、それが本音ですよ」
「妊娠と結婚の順序が逆になったから、“逆さ婚”とか」
「なんのことかわからないよ、それじゃ」
「もっとニュートラルな言葉がいいんじゃないかな」
「めでたさも、悲壮なムードもない言葉か」
「“マタニティ婚”は?」
「お、いいね、それ」
「いや、ちょっと待って下さい。男女平等社会なんですから、妊婦にばかりスポットライトが当たるのは、どうかと思います。新郎は飾り物ですか?」
「飾り物だろう、実際」
「それを言ったら身も蓋もないよ」
「しかし、確かにそうだな。それに、何も妊娠したことをわざわざ名称としてあからさまに出す理由など、本当はないかもしれないなぁ」
「でも、それとなく“普通の順序じゃない結婚”であることは、名前として出したいじゃないですか。婉曲というか、比喩というか……」
「そうだなぁ。“おめでた婚プラン”という、妊婦向け披露宴プランを出している立場からすれば、新婦が妊娠中かどうかは非常に重要だしなぁ」
「「「うーん……」」」
 
 
命名。
『サプライズド婚』

(びっくり“させられた”の意の“ド”がポイント)
 
定着の予想:ほぼ0%

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