2005年7月
クール・ビズ
国が提唱するものにしては、珍しい位にネーミングセンスがいいな、と思ったら、一般公募だった。やっぱり。
「クール・ビズ」。「Cool(涼しい)」と「Biz(ビジネスの略)」をくっつけた造語であるが、その実態は「ノー・ネクタイ、ノー上着運動」である。
目的はズバリ、「省エネ」。夏になると、冷房のために電気消費量がグンと跳ね上がるので、この冷房温度を2度上げることで、電力をセーブしようということだ。
でも、夏は、暑い。冷房温度を2度も上げたら、全然オフィスが冷えないよ、という声が聞こえてくる。
ところが、女子社員の立場からすると、必ずしもそうではないことが分かる。何故なら、真夏の女子社員は、社内では膝掛けが手放せないからだ。男性社員に合わせた冷房温度では、女子社員には低すぎるのだ。
つまり、オフィスを冷房しすぎにしている原因は、男性社員にあり。そして、何故男性社員がこうも暑がりなのか、と言うと……その原因は、服装にあった。
ネクタイで首周りを締め付け、半そでTシャツ1枚でも暑いのに長袖の上着を上から羽織っているジャパニーズ・ビジネスマンは、歩くサウナ状態で日々働いている。暑いのは当たり前。どう考えても気温に対応した服装をしていないのだから。
で、「ノー・ネクタイ、ノー上着」である。夏なんだから涼しい格好しましょうよ、ということ。よく考えたら、至極当たり前の提言だった。
さて、この「クール・ビズ」。クールは当然「涼しい」の意なのだが、実はもう1つ、裏の意味がある。「カッコイイ」という意味である(政府がそう言ってるんだから、裏じゃなく、公式な意味とも言える)。
今着ているスーツ姿でネクタイと上着を取ったら「クール・ビズ」になるのか、と言ったら、確かに表の意味ではそうなるが、裏意味ではNG。嘘だと思うなら、やってみるといい。鏡に映った姿は、どう見ても「カッコイイ」とは言えない筈だから。
そもそも、ワイシャツという服は、ネクタイを締め、上着を着ることを前提にデザインされている。なのに、その前提を取っ払ってしまったら、酷く間抜けな服装になってしまうのだ。
だから今、紳士服売り場に行くと「クール・ビズ用のシャツ」なるものが売られている。ネクタイなしでもびしっと決まるよう工夫されたシャツである。
政府は、消費拡大も狙って、「クールな装いになるかは、あなたのセンス次第」という政策を取ったのかもしれない。
かつての「省エネルック」も、目的は同じだったが、そのあまりのセンスのなさに定着せずに終わった。一部、頑固な国会議員は、まだ着てるけど。
さて、「クール・ビズ」は、定着するだろうか?
とりあえず、スーツを着ずに会議に出ると「けしからん!」と眉を上げるような人種を思想改造することと、すっかりファッションセンスが錆付いてしまったビジネスマンをブラッシュ・アップさせることが、定着への鍵となりそうだ。
| 2005年夏、某社の平社員・田中と鈴木は、とある南の国に出張することになった。 海外旅行未経験な上、国際情勢にも詳しくない2人である。なんでこんなのに出張を任せるのか、会社側の意図はさっぱり分からないが、とにかく任されてしまったのだ。2人は、ひたすら戸惑った。 「やですねぇ。暑いんでしょ、あの国。せっかくクール・ビズで涼しい思いしてたのに、あんな暑い国でも、観光じゃなきゃスーツ必須ですよね」 田中より若干年若い鈴木がそうボヤくと、田中もうんざり顔でうなずいた。 「世界中がクール・ビズしてくれりゃあいいのになぁ。でもまあ、たった3日間のことだから、我慢我慢」 こうして2人は、右も左も分からない国に出張した。 たった1、2ヶ月でクール・ビズに馴染んでしまっていた田中と鈴木にとっては、摂氏35度でのネクタイ・上着着用は、はっきり言って地獄だ。しかし、地元民である取引先の人物は、炎天下でも涼しい顔でスーツを着こなしていた。 「やっぱ、南国に住んでると、暑さに強い体質になるんでしょうか」 「みたいだな。ああ、あちぃー……」 しかもこの国、電力事情があまりよろしくないらしく、時々停電するのだ。停電すれば、エアコンもストップする。商談中にエアコンが切れた時は、紙の上に並ぶ数字がかすんで見えなくなったほど、頭がぼんやりしてしまった。 ネクタイを取ってしまいたい。上着なんかいらん。 しかし、相手がちゃんとした服装でいるのに、そんな真似はできない。「日本じゃクール・ビズというのをやってましてね」と持ちかける案もあったが、郷に入っては郷に従え、という言葉もある。日本の理屈を押し付けるな、と言われて商談がパーになったら大変なので、ぐっと我慢した。 そんな、ふらふらな2日間を過ごし、出張最終日。取引先の社長と、現地の伝統的な料理を食べることになった。 その席に赴いた2人は、その日初めて会う社長の姿に、思わず「おおっ!」と声を上げてしまった。 「クール・ビズっすね!」 「ああ、クール・ビズだ」 社長は、ノーネクタイ・ノー上着で現れたのだ。まさに、クール・ビズ。 長袖なのが妙だが、これだけ紫外線の強い国だから、腕を覆ってしまった方が涼しいのかも。ちょっとシャツが派手な気もするが、浅黒い肌の社長には、白いシャツよりはずっと似合っている。小泉総理だって「かりゆし」をやっていたのだから、こういう柄物もアリなのかもしれない。 「きっと、日本でクール・ビズやってるの知ってて、真似してくれたんですね。俺たちが我慢してこの国の慣習に合わせたから、最後に日本に合わせてくれたんですよ」 「いい人だなぁ……日本の流行にも精通してるなんて」 「そうっすねぇ……やっぱり、ここと取引して正解だったっすね」 田中と鈴木は、社長の粋な演出に感激し、取引が成功してよかったなぁ、と心から思った。その夜の会食は、非常に和やかなものとなった。 田中と鈴木は、知らなかったのである。 インドネシアでは、バティック織りの長袖シャツが、男性の正装だということを。 |
今日の教訓:あなたの常識、世界の非常識