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2005年5月

コンクラーベ

「根比べ」と似てるなぁ、と誰もが一度は思いながらも指摘できずにいたら、メディアで最初にその微妙に寒いギャグを口にしたのは、案の定、小泉首相であった。予想通りといえば、予想通り。
という訳で、一国の首相も注目のコトバ。カトリック教会の教皇を選出するための選挙のことである。教皇の死去に伴い、世界中の80歳未満の枢機卿がバチカンに集結、投票で次の教皇(いわゆるローマ法王)を選ぶ。
コンクラーベ(Conclave)とはラテン語で「鍵のかかった」という意味。その意味通り、コンクラーベで枢機卿たちは、投票所であるシスティーナ礼拝堂に、ほぼ軟禁状態にされる(現在は「マルタの家」に滞在するらしいが、結局それも軟禁に近い)。
教皇決定まで、外部との連絡は禁じられており、現代らしく、盗聴や携帯電話への対策も万全らしい。妨害電波まで用意しているというのだから、その徹底ぶりたるや、ちょっとやりすぎじゃないの、と思ってしまうほど。マスコミ泣かせなシステムだ。
なんだってそんなに秘密にするのだろう? 投票の経緯を知られると、何かまずいことでもあるのだろうか。
隠されると、覗きたくなる。これは人間の浅ましい本能である。でもまあ、全世界のカトリック教徒を束ねる教皇を選ぶという選挙なのだから、覗いたところで、ただ粛々と選挙が執り行われているだけだろう。
……多分。おそらくは。


むかしむかし。とある国の、偉大なる国王が亡くなった。
この国では、国王は世襲制ではなかった。その昔、無能な2代目のせいで、国が大きく傾いてしまったことがあったので、その次の代から世襲制は廃止になったのだ。
では、どうやって次の国王を決めるのか。
実は、この国では、国中の領主の中から、話し合いによって次の国王を選出するのである。
国王が死去して間もなく、国中から領主という領主が、王宮の広場に集められた。
新国王誕生の瞬間に立ち会おうとする大勢の一般国民が取り囲む広場の中央で、高級な喪服に身を包んだ領主たちは、一昼夜、偉大なる国王の死を悼んで祈りをささげた。
そして翌日、いよいよ、新国王選出のための話合いが始まったのだが……。
 
 
「わたしは15年にわたり領主を務めておりますが、この15年間の我が領地の作柄は、国でもトップ5に入るほどでして……」
「そうは申されるが、あなたの土地は、元々国内で一番肥沃で恵まれた土地でしょうが。それに比べて私は、荒れ果てた土地を前領主から譲り受け、それをここまで……」
「作柄の自慢話では埒が明きません。第一、これからは商業と工業で近代化を図っていくべきですぞ。その点、うちは国内トップの商業都市ですし……」
「何を言うか。ここ100年、北部の領主ばかりが新国王に選ばれてきたではないか。いい加減、南部の領主にも回していただかなくては」
 
穏やかに始まった筈の話し合いは、次第に泥沼化の様相を呈し始め、領主たちの目は、だんだん血走ってきた。
それに加えて、見物している国民が、自分の出身地の領主を応援しようと野次や声援を飛ばすようになり、厳かなムードだった王宮広場は、日が暮れる頃には、どこかの国の野党と与党の野次合戦のような感じになってしまっていた。
 
西の領主が、東の領主の頭を叩いたのが発端だったのか。
それとも、北の領主が、南の領主のカツラをひっつかんで放り投げたのが発端だったのか。
深夜には、領主同士の掴み合いの喧嘩が始まり、その興奮は、見物している国民にも広まった。
 
貴賎入り乱れての乱闘に次ぐ乱闘。
殴られて地面に転げる者、髪を毟られてわんわん泣き喚く者、お前の母ちゃんデベソなどという低俗極まりない侮蔑を言い合う者、その場のムードに怯えてしまいマントの下に隠れている者―――そんな状態が延々続いた。
そして、空が白み始める頃には、誰も、文句を言う気力すらない状態に陥って。
 
「……もう、エラソーダ州の領主でいいんじゃないの?」
という議長の言葉が、そのまま決定事項となり、新国王は、うやむやのうちに決定してしまった。
 
 
こうして、新国王が誕生し、国は再び平和を取り戻した。
……筈もなく。
 
こんな成り行きで決まった国王なんて誰が認められるか、と国民は大激怒。各領主は、それぞれの地元の民衆から、国王決定会議の時の情けない姿を非難され、多くの領地で暴動が発生。国内は大混乱に陥った。
こりゃいかん、と一致団結した領主たちと国の軍隊が、次々に発生する民衆暴動をおさめて回ったが、国がようやく落ち着きを取り戻すまで、実に2年もの歳月がかかってしまったのだった。
 
 
以来。
この国では、新国王決定会議は、非公開とされた。
 
王宮の奥深く―――そこで、どんな会議が行われているのか、国民は全く知らない。

 
本日の教訓:人間、知らない方が幸せなこともある。
(この話は、あくまでフィクションです。カトリック信者の方、お願いですから本気で怒らないで下さい……いや、ほんとに)

コメント

投稿者 Sandra-kt : 2007年08月26日 08:30

投稿者 Sandra-kt : 2007年08月26日 08:30

投稿者 Sandra-kt : 2007年08月26日 08:30

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